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2021/07/05 11:58

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採算はとらずに「合わせる」もの


ここまで、機械についてのおはなしを
聞かせていただきましたが
次は、生地の材料について教えてください。

八重蔵
生地を作る材料は「糸」ですが
ギャバジンと平織どちらも、40番手の糸を
2本よりあわせた「双糸」で統一して
織っています。「40」番手の「双」糸だから
「ヨンマルソウ」と呼ばれます。

ギャバジンで使う糸の数は、基本は
経糸が128本で、緯糸が52本。
1m巾の場合は緯糸が38本になります。

「整経」の工程は織る前の下準備。織りに必要な数の経糸をそろえていく。


生地の原料となる糸の仕入れは
どのようにされているんですか?

八重蔵
うちの工場で織る生地用の糸は
都築紡績から天然繊維100%の
無農薬の上質な綿糸を仕入れています。
綿の産地は、インドネシアなど
海外がほとんど。国内の綿産業は
いまはあまり聞かなくなりましたね。


国産の綿がないとなると、海外からの輸入に
頼りきる状況が長く続いているんですね。

八重蔵
実は、糸の値段はいま
どんどん上がっているんです。
でも、生地を買っていただく側からは
「もっと値下げしてほしい」といわれる。


糸は値段が高くなっているのに
生地は安く売るとなると、採算はとれるの?
と心配になりますね…。

八重蔵
そうですよね。でも、私自身は
「採算は合わせるもの」という考えで
自分の商いをやっています。


採算を「とる」ではなく、「合わせる」。

八重蔵
はい。採算は「合わせる」ものです。
そして、採算を合わせる、ということは
数学の式をつくることなんですよ。

整経の工程では、糸の状態も注意深く見る。きちんと整経できると仕上がりもキレイ。

八重蔵
自分自身は、いきなり繊維業界に
入ったのではなく、商科大学に進んで
商学部で勉強しました。その経験の強みは
自分の商いに必要な“数学式”を
自分でつくれることなんです。


その“数学式”とは、具体的には
糸の仕入れ値と、生地の売値の間にある
「工程」を工夫するなどでしょうか。

八重蔵
工程の工夫については、もちろんそうですし
職人の数を調整することも工夫のひとつです。
かつて忙しかった時代はたくさんの職人に
この工場で働いてもらっていましたが
いまは基本的に、生地を織るのは私ひとりです。
生地のオーダーがたくさん入ったときは
人に来てもらって数名体制で
製造することもあります。

あらゆる道具が並ぶ作業場。「修理のためなら自分で溶接も行う」と八重蔵さん。



なるほど。いまはお一人で製造されている
とのことですが、次の代は…?

八重蔵
うちの子どもは勤めに出ていて、
いまから技術を伝えるとしても
十分に伝えきれないまま
引退することになってしまう。

とはいえ、次の代に技術や正しい教育を
つなげたい気持ちはあります。

自分自身は今年、77歳です。
先代が亡くなったときの年齢を
とっくに超えてしまいました。
だから織る作業は、いまは休み休みですね。
ちなみに、糸の入った箱は
1箱25kgもあるんですよ。
それを一人で持ち上げてる。

紡績糸の捲糸が入った箱。「チーズ」は円筒状に糸を巻いたもののこと。


1箱25kg!

八重蔵
織るために必要な作業なので、
箱を持ち上げる体力や健康は
維持できるように努力してますけど
それでも、いつまで自分ひとりで
持ち上げられるかわからないなぁ。

うちの生地をほしいと言ってくれる
お客さんから電話がかかってくるうちは
最高級品のギャバジンにこだわって
ものづくりを続けていきたいですね。


肌に心地よいピュアな布がうまれる現場を
今回、実際に見せていただいて
ピュアな布のこだわりを実感できました。
貴重なおはなし、ありがとうございました!

作り手による生地解説〈後編〉まとめ


工場を継いで50年以上、という
石井織物工場の三代目、石井八重蔵さんのお話。
〈後編〉ではものづくりの相棒・シャットル織機で
生地を織る工程を見学させていただきました。

印象的だったのは、使う糸、使う機械、
どれひとつとっても、真摯に向き合う姿でした。
そして、信頼されるものづくりを続けるため
「採算を合わせていく」という考え方。
“ピュアな布”をつくる八重蔵さんその人が
とことんピュアな方なのだ
、と腑に落ちたのでした。

石井織物工場(岡山県倉敷市)
取材日:2021年3月24日
取材・執筆・撮影:杉谷紗香(piknik)