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2021/07/05 11:57
※前編
効率よりも納得いく「品質」を優先
民さん(以下/民)
ここからはインタビュー〈後編〉です。
八重蔵さんが織る生地について、
工場内を見学させてもらいながら
おはなしを伺っていきます。
石井八重蔵さん(以下/八重蔵)
はい、よろしくお願いします。
工場は、この奥です。どうぞ。
民
おじゃまします。わぁ!
たくさんの織機がずらりと並んでいますね。
そして、どの機械も年季が入っている…。
八重蔵
うちの工場で使っている織機は
すべて「シャットル織機」です。
どの織機も50年以上使っています。
メインで使っている豊田自動織機の
織機は、昭和46年に作られたもので
いまはもう製造されていません。
シャットル織機を動かす八重蔵さん。織っているのはギャバジン。
民
織機に「TOYODA」って
書いてありますね。
八重蔵
車のメーカーのトヨタって
元は織機の製造で創業したんです。
豊田自動織機はトヨタグループの本家で
創業者の豊田佐吉さんが
シャットル織機の発明者だそうです。
ちなみに、うちの織機の型式は「GL8」。
いまではメーカーにも手入れできる人が
いなくなってしまったから
自分で修理しながら現役で動かしてるのは
この辺ではウチぐらいじゃないかな。
民
シャットル織機で織っているところは
いまでは少なくなったそうですが、
現在主流となっている織機と
どんな違いがあるんですか?
八重蔵
生地は「経糸(たていと)」に
「緯糸(よこいと)」を通して
織り上げていきますが、
シャットル織機は緯糸を
「シャトル」という部品につけて
経糸の間に通して織っていきます。
織機にセットされたシャットル。緯糸を巻きつけた木管がシャットル内に入っている。
八重蔵
現在主流の「シャトルレス織機」は
シャトルではなく、風圧や水圧を使って
高速で緯糸を運んで織っています。
コンピュータ制御で効率よく、早く
均一な生地を織ることができます。
一方で、低速度でしか織ることのできない
シャットル織機は、すべてがマニュアルで
職人の手作業が多く、効率もよくありません。
それでも、うちがシャットル織機で
ていねいに織ることにこだわるのは
風合いのよい、緻密で丈夫な生地を
お客さんに届けて喜んでもらいたいからです。
仕事の相棒は自分でメンテナンス
民
生地の仕上がりや風合いなどに
織機の種類が大きく影響するんですね。
八重蔵さんはこのシャットル織機で
どのように生地を織っていくんですか?
八重蔵
まず、織機に経糸をセットします。
次に、緯糸を巻きつけた「木管」という
パーツをシャトルの内側に入れて
織機にセットします。
織機が動き出すと機械の端から端まで、
シャトルが何度も往復して緯糸を通します。
木管の糸がなくなったら
自動的に次の木管と交換され、
木管がシャトルにセットされて
とぎれることなく
シャトルが往復しつづけます。
そうして生地が織り上がります。
箱にたくさん入った木管(もっかん)。織る前に、機械で緯糸を巻きつけて準備する。
民
織機が動いているときの
カシャン、カシャン、という
テンポの良い機械音は
ずっと聞いていたくなりますね。
八重蔵さんは、織機の音の違いで
機械の調子を察知したりするんですか?
八重蔵
そうですね。温度や湿度によって
機械の調子は毎日変わりますから
動いている様子や仕上がったものを
目で見て、音も聞いて観察します。
人間と違って、機械って
「モノ」を言わないでしょう。
ここが調子悪いから直してくれ、とか
機械が話してくれたらいいんですけど
そうはいかないから、よく観察します。
工場内にて。八重蔵さんの横にあるのは、木管に緯糸を巻きつけるための機械。
八重蔵
そして、機械はウソをつかない。
調子の良し悪しにも正直です。
先ほどおはなししたように、
もう50年以上使っている機械だから
メーカーには交換パーツもない。
だから、自分でメンテナンスをするし、
ほとんどの部品も作業場でつくります。
民
「作業場」って、工場への通路にあった
工具がたくさん並んでいたところですか?
チェーンソーや電動工具が置かれていて
まるで鉄工所のような雰囲気でしたね。
八重蔵
そうです。溶接もするし、電気系統も
自分でぜんぶ直しますよ。
民
織る技術だけでなく、修理する技術まで
備えているから、昔ながらの機械を
いまでも使いこなせるんですね。
作業場の様子。小さなパーツから大きな部品まで修理は八重蔵さん自身が行う。
(後編につづきます)
石井織物工場(岡山県倉敷市)
取材日:2021年3月24日
取材・執筆・撮影:杉谷紗香(piknik)
[八重蔵さんの生地からつくられたものたち]